宮中内蔵寮御用装束調進方 髙田家について
皇女和宮小袿地二陪織物残裂 臣籍降嫁に際し万延元年調進
髙田装束は数百年続けられている宮中内蔵寮御用装束調進方髙田家の家業を受け継ぎ、宮中御装束の製作に携わってまいりました。最も品格の高い山科流装束製作の伝統を二十四代にわたり連綿と守り続けており、今日もなお宮内庁御用達として宮中御装束を調進できる最も古い唯一の家柄であります。
髙田家の古代の服装の再現や衣服、染織品などの復元を語るとき、まず髙田家二十三代髙田義男の業績に触れなければなりません。
髙田義男は大正初年に家業を継承するとともに、大和絵の大家松岡映丘に師事し絵画を学びました。また正倉院宝物染織品、ことに羅の美しさに感動し、室町時代後期以来断えていた文羅(文様を織り表わした羅)製織技術の復活を志し、やがて復元に成功しました。次いで経錦、緯錦、綾、などの織物、夾纈、﨟纈、目交(纐纈)など技術の復活を行い、帝室博物館大島義脩館長より正倉院染織品の調査と復元製作の委嘱を受けることとなりました。この仕事にさきだち同じく断えていた黄櫨染、茜染め、紅花染そのほか植物染料による染色技法の復活に努力し『和染鑑』をまとめています。昭和二年に髙田義男の調査監督の下に西陣唐織の織匠の家出身の喜多川平郎氏を高田家の京都織工場製織主任とし、染物師大江重次郎氏を染色主任とし、古代染織研究復元の推進につとめました。
昭和三年、御即位式に際して黄櫨染御袍地の染色、御衵、御単、御表袴、御大口そのほかのために紅花染の復活採用がなされました。(昭和三年御即位式における御料織物は当時、髙田家・東京織工場で製織され、喜多川平朗氏は担当されてませんでした)
昭和四年、伊勢神宮御神宝装束調進につき、ほんらい文羅をもって製作すべきもの、夾纈によって製作すべきもの、あるいは植物染料による染色などを再興し製作しました。続いて帝室博物館の委嘱により鶴ヶ岡八幡宮御神宝装束、熊野速玉大社御神宝装束、熱田神宮御神宝装束、高野山天野社延年の舞装束、伝大塔宮護良親王所用鎧直垂、毛利家伝来鎧直垂、武蔵御嶽神社伝来赤糸縅大鎧、宇良神社伝来縫箔肩裾小袖、高台寺伝来綴陣羽織、東寺舎利会装束、手向山八幡宮伝来新靺鞨袍等々枚挙にいとまがないほどの国宝、重要文化財に指定された装束、小袖類の復元製作が行われました。
また実物遺品や復元された衣服、太刀、持物などを用いて古代の姿を再現する機会をいく度となくもうけて、同好の人々を集め研究に余念がないほどでした。それには、前述の大島義脩先生、有職故実の大家猪熊浅磨、関保之助の両先生、横山大観、松岡映丘、安田靫彦といった画伯、樺山常子伯爵夫人とその御息女(幼き日の白洲正子氏)という錚々たる方々が訪れました。
戦後間もない昭和二十五年、画家小堀安雄氏の発案で、画家および大和絵同好の人々が集い、絵巻に描かれた風俗研究をはじめました。そのうち、絵巻中にみられる人物の姿が、人に衣服を着せてみて実際にそういう形になるのか、いわゆる絵空事なのか実験してみようということになりました。昭和二十九年、安田靫彦、前田青邨両先生を顧問に新井勝利、江崎孝坪、小堀安雄、鈴木敬三、髙田義男、羽石光志、山邊知行の諸氏が世話人となり歴世服装美術研究会が発足しました。
また山邊知行先生がおられた東京国立博物館に指導を求めてこられた、結髪の名人、伊賀家さだ氏にも歴世服装美術研究会に参加していただきました。それにより冴えた技による地毛の生きた髪を結った形と、それに小袖そのほかの衣裳を着装した素晴らしい姿に改めて日本の服装美を見出し、実証的に髪形や服装との関係やらを考察しました。また風俗史、有職故実の泰斗、吉川観方、猪熊兼繁諸先生の指導を受けました。
その後髙田装束も国立歴史民俗博物館開設準備の段階から参画し、ことに王朝文化の展示に就き、御張台をはじめとする公家調度の設計と製作、束帯や女房装束を中心とする公家服装の復元製作などに従事しました。また江戸東京博物館、神奈川県立歴史博物館、千葉県立総南博物館などのために武蔵御嶽神社伝来赤糸縅大鎧の復元製作を行いました。正倉院宝物染織品の調査と復元についても髙田家二十三、二十四代の父子二代にわたって委嘱を受け携わっております。
令和元年から現在までの間もなお、宮中儀式に携わってまいりました髙田家は、これからも一層宮廷装束製作の伝承に力を注いでまいりたい次第でございます。
お断り
上記映像はデジタルカメラで撮影のため、絹織物の光沢、色彩など実際のものとは多少相違がございます。ご了承下さいますようお願いいたします。
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